( ^ω^)は、水も酸素もなくては生きられないようです
1 :1 ◆JTDaJtyHNg
[sage] :2007/11/26(月) 17:14:32.04 ID:pmg7XZfZ0
- お久しぶりです。
( ^ω^)は水も酸素もなければ生きられないようです3/3/2です。
……3部構成にしたかったんですが、書いてみたら3話がバカ長くないました。
時間の都合もありまして、2日に分けて投下しようと思います。
すみません、計画性のないヤツで。
おそれながら、以下のまとめさんにまとめていただいています。
http://boonsoldier.web.fc2.com/
http://applevip.web.fc2.com/
http://boooonbouquet.web.fc2.com/
ありがとうございます。
※前回の訂正とお知らせ
麻雀のリャンウーパー待ちは、2・6・8ではなく、2・5・8の三面待ちです。3・4・5・6・7です。
彼らのチーム名を考えた時に、なぜかまったく疑問を持たずにリャンウーパーにしてしまいました。頭がパーでした。
それでは、3話前半を始めます。
-
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:16:19.15 ID:pmg7XZfZ0
- 人は、パンによってのみ生きるのではない。
水も酸素もなくては生きられない。
必要なものはまだまだある。
たくさんの幸福と、少しばかりの誇りと、それからきっと、自分を受け入れてくれる他者も。
それを得ることは確かに、楽ではないと思う。
いやむしろ、そんなささやかなものを得ることこそが、生きることの過酷にほかならないのかもしれない。
でも、考えようによっては、人は、たったそれだけで生きていける。
難しいけれど、一生を費やして得られないことはない、たったそれだけのもので。
穏やかに、とても綺麗に生きていける。
――なのに。
どうしてぼくは、いつもいつも、要らないものをたくさん抱え込んでしまうんだろう。
何故この身は、こんなにも、薄汚くなってしまっているのだろう。
ああ、ぼくは。
どうして、生きていたんだっけ?
-
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:18:19.80 ID:pmg7XZfZ0
- ――268番村・村長屋敷――
翌日。というのはもちろん、カラスで5万フィートの星を見た、その翌日。
ツンと高岡と、それからもちろん自分も、フサギコの家で正座させられていた。
ミ,,゚Д゚彡 「……んで、ついつい嬉しくて勢いでトリを飛ばした、と」
从 ゚∀从 「トリじゃねー! カラスだ! アタシの芸術だ!」
川 ゚ -゚) 「工場長、あなたはちょっと黙ってろ」
从 ゚∀从 「……はい」
(; ^ω^) 「ごめんなさいお……」
ミ,,゚Д゚彡 「別にお前のことを悪く言いたかねぇがよぉ、一言相談くらいあってもいいんじゃねーのか?」
(; ^ω^) 「反省しておりますお……」
ξ;゚听)ξ 「あの、わたしも止めるべきでした……」
川 ゚ -゚) 「わたしの大事な話も、途中で打ち切られた」
(; ^ω^) 「おっしゃる通りですお……」
川 ゚ -゚) 「……がんばったんだぞ、これでも」
-
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:20:21.62 ID:pmg7XZfZ0
- ミ,,゚Д゚彡 「オメーもだぞ、ショボン」
フサギコが不意に、部屋の隅にあった端末に話しかける。
端末はどこにつながっているかといえば、格納庫にあるカラスの機体制御演算素子、つまりショボンのタガだ。
(;´・ω・`) 『ぎくぅっ』
ミ,,゚Д゚彡 「……ったくよぉ、オメーはもう少し常識人だと思ってたよ、オレぁよ」
(´・ω・`) 『ハッハッハ ワタシ カラス デース ムズカシイコト ワッカリマセーン』
ミ,,゚Д゚彡 「やっぱテメーはポンコツだな。よく眠れるようにスクラップにしてやろうか」
(;´・ω・`) 『いやいやいやいやタンマ、せっかくラッキーで九死に一生を得たんだから!』
ミ,,゚Д゚彡 「変わんねーなテメーも」
(´・ω・`) 『そりゃまぁ、演算素子丸ごと移植したからね。データホルダーまでは流石に無理だったから、色々消えちゃったけど』
ミ,,゚Д゚彡 「色々?」
(;´・ω・`) 『あ、いや、こっちの話』
フサギコが、はぁ、とため息をつく。
自分もつきたい。ホントに、よくショボンに機体制御を任せて、無事に着陸できたな、と思う。
-
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:22:59.31 ID:pmg7XZfZ0
- ――いや、無事でもなかったのだけれど。
そりゃぁもう、ひでぇ着陸だった。アレは、限りなく墜落だった。
今自分が生きて呼吸をしているのは、天のご加護とかではなく、死神が最後の最後で仕事をサボったからに違いなかった。
言うまい。
自分もツンも、それからついでにショボンも、とりあえずは無事だったのだから。
――あと、できれば思い出したくない、というのもある。
ミ,,゚Д゚彡 「……とにかくまぁよ、無事だったんだからいいけどよ。罰は受けなきゃなんねぇ。そうだな?」
(; ^ω^) 「はい……よく分かっておりますお……」
从 ゚∀从 「異議あり! ブーンは悪くねぇよ! アタシが無理やり乗っけたんだ!」
ξ;゚听)ξ 「(それを言えば、わたしこそ無理やりだった気がします、工場長……)」
ミ,,゚Д゚彡 「あー、工場長、もちろんテメーは厳罰な。ショボンを許可ナシにバラした分もあるしな。
ま、3日間自律運用モードで堪忍してやらぁ」
( ^ω^) 「それはおかしいお、罪は平等にあるお! だいたいショボンのことだって、カラスとショボンのためだお!?」
ξ;゚听)ξ 「(えぇぇー、わたしも平等に罪があるかなぁ……)」
ミ,,゚Д゚彡 「あー、そりゃなんつーかよ、つまりよ……」
川 ゚ -゚) 「工場長の顔を潰すな、と言ってるんだ。村長は」
ミ,,;゚Д゚彡 「……だからオメーは、なんでそう、こっ恥ずかしいこと言っちまうかなぁ……」
-
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:25:33.82 ID:pmg7XZfZ0
- ああ、そうか。
高岡は、自分をかばってくれているのか。
从 ;゚∀从 「ば、ばか、そんなんじゃねーよ! アタシはただ、技術屋として事実が何よりも大事だって、」
常にハイテンションで、トップギアのまま何も考えずに周囲を引きずり回す子だ、と思っていた。
そしてそれは、一面の真実であるとは思う。
けれど、彼女はちゃんと気も配れるのだ。ちゃんと周りを見ていないのは自分の方だ。
だって彼女は、自分のために、カラスまで仕上げてくれたじゃないか。
( ^ω^) 「高岡、ありがとう。ホントにホントに感謝してるお」
从 ///从 「だっ! ばっ、わっ! …………う、うん」
何やら手足をバタバタさせて、顔を真っ赤にしながらこくりと頷く彼女を、かわいいと思う。
ああ、もっと見たい。ヒトたちが、何を考えて、どう行動するのか。
もっとずっとここにいたら、分かるだろうか。
ヒトたちも、自分に見せてくれるだろうか。そういう、本音の部分を。
ミ,,゚Д゚彡 「そーいうことだからよ。クー、工場長にメンテコード突っ込め」
川 ゚ -゚) 「了解」
-
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:28:05.05 ID:pmg7XZfZ0
- クーが、長い髪に隠れたタガからするするとコードを伸ばし、高岡の肩にあるタガに接続する。
川 ゚ -゚) 「無駄なプロセスを殺してくれ、余計なものまで焼きかねない」
从 ゚∀从 「はいよ。――『ほら、常駐プロセスは殺した。これでいいだろ』」
高岡の言葉の後半は難しい共用語で、ちょっと自分には聞き取れない。
川 ゚ -゚) 「よし……メンテコード入力。ハルマゲドン・プラクティスモードで再起動。演算素子、独立稼動開始」
一見、何の変化もなさすぎて、独立運用モードというのはそれほど厳しい罪でもないのかな、と思った。
違った。
从 ゚∀从 「――補助結線全確立確認 我求適切的行動?」
川 ゚ -゚) 「工場区画に戻れ。4番ラインの工程が遅れている。監督を頼む」
从 ゚∀从 「了」 (ガチャ バタン
クーに命じられた高岡が、ひどく直線的な動きには、普段の高岡らしさがまったくない。
らしくない、といえば、仕事の指示にあんなに素直に従うのも、非常に高岡らしくないと思う。
いやまぁ、高岡に失礼ではあるんだろうけれど。
-
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:30:36.18 ID:pmg7XZfZ0
- ( ^ω^) 「言葉が全然分からなかったお……」
ξ゚听)ξ 「んとね、要らないプロセスを全部キルして、とにかく必要なことを果たすのが独立運用モードなの。
言語野も必要最低限を残して最小限の機能に限定されちゃうの」
川 ゚ -゚) 「本来は、神への反乱を抑制したり、神の身に何か起きた時の緊急用。
ちなみにわたしはキライだな、狭苦しくて」
狭苦しい、という表現からして、多分懲役刑に似たものなのだと思う。
懲役3日。重いような軽いような。
ミ,,゚Д゚彡 「あー、そんでおめーらの処分だけどよ」
ξ;゚听)ξ 「は、はい……」
(; ^ω^) 「(何が来るお……? 酸素供給3日停止とかなったら死ぬお……)」
ミ,,゚Д゚彡 「反省文でいーや」
ξ゚听)ξ 「はい? 反省文?」
( ^ω^) 「……軽すぎないかお?」
ミ,,゚Д゚彡 「そうか? 言っとくけどな、反省文てのは、反省の意思が伝わらないと意味がないんだぞ?」
( ^ω^) 「と、いうと?」
川 ゚ -゚) 「当然、ブーンは共用語で書くことになるな。反省文を」
-
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:33:48.33 ID:pmg7XZfZ0
- ――げ。
(; ^ω^) 「……共用語の文章って、あの数字とアルファベットの羅列ですかお?」
ミ,,゚Д゚彡 「ちなみに最低30キロバイトな」
えーと、1バイトで半角英数字1文字だから、30キロバイトは……、
(; ^ω^) 「3万文字ぃぃぃぃ!?」
ミ,,゚Д゚彡 「まー、1週間はかかんだろ。場合によっちゃ工場長よかよっぽどキツいかもな」
ξ゚听)ξ 「……あの、わたしはすぐ書けちゃうんですけど」
ミ,,゚Д゚彡 「まー、状況を考えればそれぐらいが妥当じゃねーか? そんかし、ブーンを手伝ってやれよ」
ξ゚听)ξ 「は、はい……」
参った。これは確かに、けっこうな罰だ。
0A71B1だとか08BB95A23といった文字で、3万文字の反省文。
1週間、というフサギコの見積もりもけっこう微妙だと思う。多分2〜3週間はかかる。
川 ゚ -゚) 「不満か?」
( ^ω^) 「……ううん。そんなことはないお」
-
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:36:19.32 ID:pmg7XZfZ0
- そうだな。不満ということはない。
何しろ、時間はたっぷりあるのだし。
それに、ある意味では嬉しいとすら思う。妙に軽い刑にされるよりは、よほどだ。
それは、ヒトと同じ場所に立っている、ということだから。
( ^ω^) 「フサギコ……いえ、村長。処分のほど、謹んで受けますお」
ミ,,゚Д゚彡 「んだよぉ気持ち悪ぃ。フサギコでいーんだよフサギコでよ」
川 ゚ -゚) 「誰も名前で呼んでくれないからな」
ミ,,;゚Д゚彡 「……おうよ」
ξ゚听)ξ 「気にしてたんですか?」
ミ,,;゚Д゚彡 「え? いやおめー、そんなワケねーじゃん? じゃんじゃん? 村長って偉いしよ」
ξ゚听)ξ 「――フサギコ村長。製造ナンバーX0021-3054、ツンも謹んで処分を受けます」
ミ,,゚Д゚彡 「お、おうよ。なんかカユいなこういうの」
川 ゚ -゚) 「そう言うな、フサギコ村長」
ミ,,;゚Д゚彡 「……何でだろうな。クーが言うとからかわれてる気がする」
(; ^ω^) 「(フサギコ、多分それはマジでからかわれてるんだと思うお……)」
-
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:38:20.27 ID:pmg7XZfZ0
- ――村長屋敷・外――
( ∵) 「や」
長時間の正座にシビれた脚で、びっこを引き引きフサギコの家から出ると、ビコーズが待っていた。
ちなみに、ツンはあれだけ正座をしてもシビれないらしい。
なんかズルいと思う。
ξ゚听)ξ 「あ、ビコーズさん」
( ∵) 「どうだった? boonシステムβ1.00」
ξ゚听)ξ 「もう、すっごいですよ。ビックリしちゃうくらい。ね? ブーン?」
( ^ω^) 「ホントだお。ぼくも驚いたお」
なぜ、自分があんなにもスムーズにヒトたちと会話できたか。
そろそろタネ明かしをしよう。その名は、boonシステムβ1.00だ。
要は、先日ビコーズが持ってきたディクショナリーファイルとやらの頒布版、ではある。
が、今朝方、相変わらず何のアポもなしにツンの家に来たビコーズが提出したファイルは、驚くべき進化を遂げていた。
( ∵) 「そうか。何しろ、どう動くかぼくにも予測しかねるモノだったからね。ちょっと心配だったんだけど」
ξ゚听)ξ 「もう、完璧ですよ!」
-
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:41:23.58 ID:pmg7XZfZ0
- 何が予測不能で、何が完璧なのか。
その辺の説明は、実に難しい。ビコーズの言葉を引用すれば、こうだ。
( ∵) 『α版では、副詞や助詞や助動詞のカバーが完璧でなかったしね、単語もまだまだ足りないということが分かった。
このβ版ではソフトウェア的なニューロコネクティブを構築して、言語のファジーな部分をカバーすると同時に、』
と、この辺で自分の理解を完全に超えてしまった。
「同じ言語で話しているのに、意外とアレだねキミは」
などとさり気なくヒドい言葉をかけられながら、ビコーズに求めた再説明によれば、こうだ。
( ∵) 『つまり、かなり自然に話せるようになったってことさ。少なくともそうなるように作った。
さらに前後の文脈を拾って、変換できない単語の予測もできる』
ちなみにビコーズは、フサギコの家にいた全員に、
「こういうときこそ必要だろうから」
と言いながらショボンを含む全員にインストールして、肝心の説教が始まった途端、さっさと出て行ってしまった。
実はけっこう要領のいいヤツだった。
( ^ω^) 「ホントに凄いお。自然すぎて違和感があるくらいだお」
( ∵) 「まぁ、今まではアレだからね。『単語をつなげた文を喋っていただけ』」
( ^ω^) 「あとは、身振り手振りだったお」
-
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:44:07.46 ID:pmg7XZfZ0
- なんだか懐かしくなって、ツンにいきなり言ってみた。
( ^ω^) v 「マジ!」
ξ゚ー゚)ξv 「マジ!」
ツンも、ちゃんと答えてくれた。
――ああ、言葉が通じるというのは、ホントに凄いことだ、と、改めて実感する。
( ∵) 「まぁ、それはそれで味のあるコミュニケーションだったけどね。ちょっと楽しかったな。あれは」
(; ^ω^) 「ホントに、よくマジだけでここまで何とかなったと思うお」
ξ゚听)ξ 「あ、ねぇブーン、ずっと気になってたんだけど」
( ^ω^) 「? 何かお?」
ξ゚听)ξ 「最初に会ったとき、わたしに何か言ったでしょう? あれ、何て言ってたの?」
( ^ω^) 「あー、ツンにぶっ飛ばされた時かお」
ξ;゚听)ξ 「……しょ、しょうがないでしょ? だっていきなりだったし」
あのときの痛みは、今もよく覚えている。
そうか。そろそろ話す時かもしれないな、と思う。
-
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:47:03.50 ID:pmg7XZfZ0
- ( ^ω^) 「――昔、ツンっていう子が、ぼくのパートナーだったお」
ξ゚听)ξ 「……わたしと同じ名前の人間、だったよね」
( ^ω^) 「名前だけじゃないお。顔も、背格好も、すごく似ている子なんだお」
あえて、似ている子「だった」とは言わなかった。
あの時、あの封印区画に、人間のツンの防護服はなかったから。
ツンは、今もどこかで、自分と同じように、水と酸素に苦労させられながら、生きているかもしれないのだから。
そうだ。
ツンは、人間のツンは、自分の唯一無二のパートナーだ。
ガンナーシートにツンを乗せて、6枚の翼を駆って、大空をかけていた。
結婚式の真似事までしておきながら、果たして自分はツンに恋愛感情を持っていたかというと、少し自信がない。
ただ、何をおいても一番大切な存在なのは間違いない。
ずっと一緒にいると約束したのは、自分が、そしてツンも、そうしたかったからだ。
ξ゚听)ξ 「じゃあ、ツンさんとわたしと、どっちが大事?」
Σ(; ^ω^) 「ええっ!?」
( ∵) 「……なかなか意地悪だね、ツンも」
ξ゚听)ξ 「だって、気になるじゃないですか」
-
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:50:01.09 ID:pmg7XZfZ0
- (; ^ω^) 「おー……難しいお……考えたこともなかったし」
ξ゚听)ξ 「えー、つまんないなぁ」
ツンが、すねたように石ころを蹴飛ばす。
――ごめん、ツン。
( ^ω^) 「とっ、とにかくっ、帰るお? 宿題いっぱい出されたし」
ξ゚听)ξ 「あーうー……そだね。そういえば、文字の勉強はあんまりしてなかったよね」
( ∵) 「宿題?」
( ^ω^) 「そうだお。反省文を30キロバイト」
ξ゚听)ξ 「それも共用語で、です。簡単って言っちゃったけど、わたしも書くの大変そうだなぁ……」
( ∵) 「あ、先に言っとくけど、ブーンの言葉を共用語に直すプログラムは作らないからね」
(; ^ω^) 「さすがにそこまで考えてないお……」
( ∵) 「そう?」
――はっきりと、明言してしまうのを避けたのは。
きっと自分は、今も、人間のツンの方が大切だと思っているからだった。
-
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:52:44.92 ID:pmg7XZfZ0
- ――ジャンクヤード・7番倉庫(「カラス」格納庫)――
(´・ω・`) 「ふぅ……工場長は3日間自由にならないか。着陸で、けっこう壊れちゃったんだけどなぁ。足回りとか」
ゴゴゴズズズズズ
(´・ω・`) 「……ん? 誰だい?」
ミ,,゚Д゚彡 「よう」
(´・ω・`) 「フサギコ村長? それにクーも?」
Σミ,,;゚Д゚彡 「おぉ!? あんだテメー、あの話、テメーも聞いてやがったのか!?」
(´・ω・`) 「そりゃ、オンラインのままだったからね。聞こえるねバッチリね。
それよっか、わざわざどうしたんだい? 話なら、屋敷からの通信でもいいだろうに」
ミ,,゚Д゚彡 「何ってそりゃおめー、アレだよ。なんつーかよ、あるじゃねぇかよ。なぁ?」
(´・ω・`) 「?」
川 ゚ -゚) 「フサギコ村長は、嬉しいんだ。あなたが機能停止していなくて」
Σミ,,;゚Д゚彡 「だっ、だからテメ、どうしてそういうこと言っちまうかな!」
(´・ω・`) 「なんだ村長、一応気にはしてくれてたの」
ミ,,;゚Д゚彡 「そ、そうだよ。悪ぃかよ。おめぇとも長ぇしよ、だからまぁ、気にはなるワケだよ」
-
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:55:16.41 ID:pmg7XZfZ0
- (´・ω・`) 「フサギコ村長さ、変わったよね」
川 ゚ -゚) 「やっぱりショボンもそう思うか」
ミ,,;゚Д゚彡 「な、なんだよ。別に変わっちゃいねーぞ、オレぁ」
(´・ω・`) 「隠してもバレバレだよ。前はあんなにウソつきだったのにさ。ウソがヘタになったよ」
ミ,,゚Д゚彡 「……そうか?」
(´・ω・`) 「ぼくもだから、分かるんだ。ブーンだよね。ぼくらは、彼に強力に惹きつけられてる」
川 ゚ -゚) 「…………」
(´・ω・`) 「どうしてなんだろうね? ニンゲンは、ぼくらよりずっと不自由だ。あんなに重いものを背負わなければ活動もできない。
身体能力だって低い。見た目だって……少なくとも端正じゃないしね」
川 ゚ -゚) 「……少しだけ、分かった気がするんだ」
ミ,,゚Д゚彡 「あ?」
川 ゚ -゚) 「ブーンは、ショボンの髪の毛を、広場に埋めていた。オハカ、と言うそうだ」
ミ,,゚Д゚彡 「あぁ、そういや髪がどうこうって言ってやがったな。そんなことしてたのか、アイツは」
川 ゚ -゚) 「ニンゲンは、いなくなった仲間を忘れてしまうらしい。だから、補助記憶としてそういうものを作る」
(;´・ω・`) 「えええー、ぼく忘れられるところだったの?」
川 ゚ -゚) 「少なくともブーンにはな」
-
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 17:58:48.33 ID:pmg7XZfZ0
- 川 ゚ -゚) 「それに、言葉が分からないせいもあったかもしれないが、時々含んだように笑うだろう。
内に何か隠し持っているようで、今回のように堂々と無鉄砲なこともやる」
ミ,,゚Д゚彡 「なんか、欠点ばっかみてーに聞こえるな」
川 ゚ -゚) 「ん。そうなんだ。だから、よく分からないんだ。よく分からないが、少しだけ分かった気がするんだ」
(´・ω・`) 「なるほど、変わったのはクーもか」
川 ゚ -゚) 「……そうなのかもしれない」
(´・ω・`) 「まぁ、変わったと言えばぼくも人のこと言えないよね」
ミ,,゚Д゚彡 「テメーはよ、変わりすぎなんだよ」 (ゲシッ
(;´・ω・`) 「わああ、足回りは今壊れ気味なんだから蹴らないでよ」
川 ゚ -゚) 「……ショボンは、カッコよくなった」
(;´・ω・`) 「ヒトの時と比べられてると思うと、なんか複雑だなぁ……」
ミ,,゚Д゚彡 「お前、空飛べるんだよなぁ」
(´・ω・`) 「そうだね、っていうか、空飛ぶ以外に特にできることないね、今のぼくはね」
ミ,,゚Д゚彡 「どーだったよ、空」
(´・ω・`) 「うん、なんていうか――そうだ、ツンが言ってたな。綺麗だったよ」
-
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:01:30.93 ID:pmg7XZfZ0
- ――夕方・ツンの家――
(; ^ω^) 「やっばいお……反省文、書き出しから全然分かんないお……」
ξ゚听)ξ 「えーっとね、今回わたくしは、だから……5468AB61869B478AA……」
(; ^ω^) 「ごぉ……よん……ろく……はち……」
ξ゚听)ξ 「……ブーン、字がきれいだね」
( ^ω^) 「そうかお? 生まれてから1千飛んで20ちょっとだけど、そんなこと一度も言われたことなかったお」
ξ゚听)ξ 「わたしたちは、ほら。あんまり字を書く必要がないから。慣れてないし、汚いから」
確かに、ツンの字は汚い。最初に見たときも思ったし、今見てもそう思う。
汎用マニピュレータは、もちろん字を書くようにできてはいないから、それも当然ではある。
( ^ω^) 「(けど、そうだお)」
自分たちの時代のロボットには無理だった。
けれどもしかしたら、ヒトたちなら。
( ^ω^) 「ツンも、ちょっと字を書く練習してみるかお?」
ξ゚听)ξ 「教えてくれるの?」
-
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:04:11.33 ID:pmg7XZfZ0
- ( ^ω^) 「だって、ぼくだけこんなに大変なんじゃ不公平だお? ツンも一緒に苦労するお」
ξ゚听)ξ 「うんっ、やってみるねっ!」
苦労する、というのに、めちゃくちゃ嬉しそうなツンが、なんだかおかしかった。
( ^ω^) 「まずは1から……これはツンも得意だと思うお」
ξ゚听)ξ 「いーちー」
( ^ω^) 「よくできました。次は2……ああ、これいきなり難易度高いかもしれないお……」
ξ゚听)ξ 「に〜い〜」
(; ^ω^) 「ちょっと曲がってる……というか、角張ってるというか……」
ξ゚听)ξ 「にぃ〜いぃ〜……」
( ^ω^) 「2は、こうやって……ここで曲げて。ツン、ちょっとぼくの手を握ってみて? 一緒に書いてみるお」
ξ゚听)ξ 「分かった!」
ぐりぐり、と、2の曲線をツンの手に教え込む。
防護服の要らないこの家で、直に触るツンの手は、やっぱり冷たい。
すぐそばに寄せられた顔は呼吸をしていない。ぴったり寄せられた肌からは、鼓動も伝わってこない。
-
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:07:18.80 ID:pmg7XZfZ0
- それなのに、なぜか自分は、1000年前のことを思い出している。
ツンは、クレーンゲームが苦手だった。
どこのゲーセンにも置いてある、絶妙に意地悪な強さのアームで景品を取る、アレだ。
バランス感覚と精密な操作が命の飛行機乗りなのにクレーンゲームが苦手、というのが妙におかしくて、自分は笑った。
笑っていられたのは、クレーンゲームに20枚ものコインをタダ飲みされるところまでだった。
「だぁ――っ! 何これ?! 壊れてんじゃないの!?」
ツンがキレた。
筐体を蹴ろうとするツンを必死で押しとどめて、そうだ。
ちょうどこんな風に、ツンに手を握らせて、クレーンを操作する感覚を教えてあげた。
ξ゚听)ξ 「……? ブーン、なに笑ってるの?」
( ^ω^) 「あ、いや、なんでもないお」
やっぱり似てるな、と思う。
同時に、話ができすぎてるな、とも思う。ただの杞憂――な、ワケがないよな、これは。
彼女は、何なんだろう。
最初の日々に感じた疑問が、蘇ってくる。
-
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:09:50.00 ID:pmg7XZfZ0
- ξ゚听)ξ 「よぉっし、じゃあ一人でやってみるね……にーい、っと」
(; ^ω^) 「…………」
ξ;゚听)ξ 「…………」
(; ^ω^) 「(……2っていうより……Zの書き損じって言った方がまだ近いお……)」
ξ゚听)ξ 「……はぁ、すぐにはうまくならないねぇ、ブーン」
諦めたように、自嘲するように、ちょっと笑ってそんなことを言うツンに、ああそうだな、と思わされた。
――やめよう。
ヒトのツンを目の前にして、その姿を人間のツンとダブらせるのは失礼だ。
だいたい、見た目が似ていることに、思考が引っ張られすぎていると思う。
ツンとツンは違う。自分の知るツンなら、きっとこんなとき、
「うだーっ! ぅざったいなもーっ!」
などと気合の足りないことを言って、きっとペンを放り投げてしまうだろうから。
それに、だ。
今の自分は、同じじゃないか。
自分を指さして、異口同音に拒絶の言葉を口にした、1000年前の人間たちと。
自分のことを根掘り葉掘り調べ上げ、知ろうとして、そのくせ、ついに自分を直視することはなかった彼らと。
-
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:12:23.12 ID:pmg7XZfZ0
- ( ^ω^) 「ん、でもさっきのと比べると、ちょっと2っぽいお。よくできました」
ξ*゚ー゚)ξ 「そ、そうかな?」
ツンは、ふへへぇ、と、今度は緩みきった笑みを浮かべて、「2」という文字を見つめる。
ξ゚听)ξ 「これが、1000年前のカタチなんだよね」
そして突然、そんなことを言う。
( ^ω^) 「おー、1000年前のカタチ、かお」
ξ゚听)ξ 「うん、この上のところがぐいーっと曲がってるの、この辺が1000年前」
言ってることは意味不明だけれど、言いたいことはなんとなく分かる。
綺麗な曲線を描く「2」は、確かに今はもう、失われてしまったカタチなのかもしれなかった。
(; ^ω^) 「――ってしまった、反省文全然進んでないお」
ξ;゚听)ξ 「……練習は書きながらにしよっか。えっと、無許可で……製造された……トーリーを……」
-
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:14:53.85 ID:pmg7XZfZ0
- @
( ^ω^) 「おー、ツン、ちょっとぼくの書いた文章読んでみて欲しいお」
ξ゚听)ξ 「うん、いいよ。えーっと、ここ?」
( ^ω^) 「そうだお。誤字とかあったら教えて欲しいお」
ξ゚听)ξ 「ん、分かった。えーっとなになに。……『わたしの、愛馬は、凶暴です』……」
(; ^ω^) 「……あれ?」
ξ;゚听)ξ 「……これ、なんて書きたかったの?」
(; ^ω^) 「わたしは、ご禁制のトリを用いて空を飛びました、って」
ξ;゚听)ξ 「……でもこれ、『わたしの愛馬は凶暴です』、だね……」
(; ^ω^) 「……共用語の文章だって、ちょっとはツンに教えてもらってたはずなのに……ごめんお……」
ξ゚听)ξ 「ま、まあ、これから分かるようになるよ! わたしだって、まだ上手に2書けないもん!」
ほら、と言って、ツンは紙の余ったスペースに「2」を書き込む。
――ちょっとうまくなっていた。
ξ;゚听)ξ 「……あれ……なんか上手に書けちゃった……」
-
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:17:37.79 ID:pmg7XZfZ0
- ( ;ω;) 「ららるー……ららるー……」
Σξ;゚听)ξ 「わぁっ!? ナミダ出しながら指で壁をグリグリするのやめてっ!? なんか怖いから!」
( ;ω;) 「いいお、ツン……ぼくみたいな落ちこぼれはほっといて欲しいお……」
ξ゚听)ξ 「ほ、ほら、教えてあげるから!
ブーンの書いたのは9456A5671BB56A7B78248A125だけど、ホントは9456A5681AB72846B225で、」
( ;ω;) 「先生、ぼくにはさっぱり分かりませんお……」
部屋の隅で、壁に「の」の字を書いてイジケる自分を、ツンが必死に机に戻そうとする。
ついには両腕で胴体を抱え込んできて、「ほーらー!」などと言いながら強引に引っ張るツンが、
唐突に、
ピタリ、と止まった。
( ^ω^) 「お? ツン?」
ξ゚听)ξ 「…………」
(; ^ω^) 「……ツン?」
-
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:20:22.13 ID:pmg7XZfZ0
- ξ゚听)ξ 「――音楽が、聞こえる」
ツンが、ぽつり、呟く。
――音楽?
両手を耳にやって、どんなに集中してみても、そんなものは聞こえなかった。
( ^ω^) 「ツン、音楽って何だお? そんなもの聞こえないお?」
ξ゚听)ξ 「でも、聞こえるもん……『ら・ら・ら・ら ららら ららら らら』、って……」
――え?
ξ゚听)ξ 「ら・ら・ら・ら ららら ららら らら ら・ら・ら・ら ららら ららら らら……これ、なに……?」
凍った。
知っている音楽だった。
知っている、どころの騒ぎじゃなかった。
ξ゚听)ξ 「ら・ららら ら・ららら・ら……」
パガニーニによる大練習曲集第3番嬰ト短調。リストの、『ラ・カンパネラ』。
――ツンが、人間のツンが好きだったクラシック。
-
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:21:03.10 ID:pmg7XZfZ0
- ああ、いけない。
さっき決めたのに。人間のツンとヒトのツンを混同しない、と決めたのに。それを、自分はもう破ってしまっている。
でも、仕方ないじゃないか。『ラ・カンパネラ』の旋律を呟く、ツンの声は。
――自分の知る、誰よりも自分に近いところにいたツンに、あまりにも似ているのだから。
( ^ω^) 「ツン……ツンかお!? ねえツン!? キミなのかお!?」
背中から胴体を抱え込んだまま、ツンの動きは止まってしまっている。
ただ、口元だけが『ラ・カンパネラ』の旋律を呟き続ける。
見えない。どんなに体をねじっても、ツンの顔が見えない。
( #^ω^) 「ツンっ!」
焦った。
半ば突き飛ばすように、しがみついていたツンの体を引き剥がしてしまった。
ξ )ξ 「……痛い」
(; ^ω^) 「あ、ご、ごめんお、ツン、でも、」
でも、何だ?
キミは、キミなのか? ああ、自分は何を聞きたがってる?
-
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:24:09.28 ID:pmg7XZfZ0
- ――答えは、向こうからやってきた。
ξ* ー )ξ 「久しぶりだね、ブーン」
尻もちをついたまま、静かに、ツンがそう言う。
精神がバラけそうだと思う。
似ている、なんてもんじゃなかった。喋り方も、表情も、ツンそのものだった。
蒸発しそうになる思考を必死に押しとどめる。
(; ^ω^) 「……ツン、キミなのかお?」
ξ* ー )ξ 「そうだよ。忘れちゃったの?」
( ^ω^) 「忘れるワケないお!? 封印区画にはキミの防護服はなかったし、だからどこかにいると思って、」
ξ* ー )ξ 「そっか。嬉しいな」
( ^ω^) 「キミは、キミはどこにいるんだお!?」
ξ* ー )ξ 「何言ってるのブーン。わたしは、ここにいるよ?」
ほらここに、と、ツンが両手を広げる。
抗いがたい誘惑がある。ようやく会えたね。そう言って、抱きしめてしまいたい。
でも、いけない。何かがおかしい。考えろ、考えろ、考えろ――、
-
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:26:51.58 ID:pmg7XZfZ0
- ξ* ー )ξ 「また、ひとりで何か考えてるでしょ。昔から悪いクセだよそういうの」
(; ^ω^) 「だって、キミはツンじゃないお!? おかしいお、だって、」
ξ* ー )ξ 「何言ってるの? わたしはツンだよ。顔も声も名前も。そうでしょ?」
(; ^ω^) 「そうだけど、それはヒトのツンだお!?」
くすくす、とツンが笑う。
ξ* ー )ξ 「ヘンなブーン。ヒトってなぁに? わたしは、そうだよ。人のツン」
( ^ω^) 「言葉遊びしてる場合かお!? 人間とヒトとは違うお!?」
ξ* ー )ξ 「何が違うの?」
( ^ω^) 「それは……だから、ヒトは酸素が要らないし、それに、」
ξ* ー )ξ 「じゃあ、ブーンは酸素が要らないわたしはキライ?」
(; ^ω^) 「そういうことじゃなくて、だから……、えっと、」
ξ*゚ー゚)ξ 「そんなの、微々たることじゃない? わたしはツン。そうでしょ?」
――そう言って笑う、ツンに。
頷き返してしまうのを抑えるのに、多大な努力が要った。
-
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:29:33.00 ID:pmg7XZfZ0
- ――同時刻・ビコーズの家――
( ∵) 「(……ダメだね。やっぱりぼくじゃ、情報処理機器は使いこなせない。
どこまでできるか分からないけど、ショボンに頼るしかないな)
( ∵) 『ショボン。ショボン。起きて欲しい。緊急電だよ』
(´・ω・`) 『やぁ。慌ててるビコーズは珍しいな』
( ∵) 『慌てもするさ。緊急事態だ。さっきから聞こえてる音楽の発信源を、情報統合処理システムで特定したい。
キミに直接操作はできないだろうから、ぼくがやる。タガでキミとリンクして、ぼくの体を――、』
(´・ω・`) 『……音楽?』
( ∵) 『……ショボンには聞こえてないの? じゃあ、これはぼくのエラーなのかな?』
(´・ω・`) 『あ、いや。音楽か。そうか、これは音楽なのか』
( ∵) 『……その口ぶりだと、もう調べはついてるのかな?』
(´・ω・`) 『はっはっは、まぁね。ほら、ぼくのタガは今、村長屋敷とも結線されてるだろう。
そこから電子防壁を4つ破ると、監視所のシステムに行き着くんだよね』
( ∵) 『電子防壁4つ……さすがに仕事が速いね、情報技師長』
(´・ω・`) 『いやまぁ、この村のネットワークには、全部ぼく専用のバックドアがついてるってだけの話なんだけどね』
( ∵) 『……今はそのことについては突っ込まないようにしておく。それより、何なのかな、この音楽は』
-
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:32:14.62 ID:pmg7XZfZ0
- (´・ω・`) 『――電波だ。この村から半径10キロ圏内で、強力な電波が発信されてる。
音楽はぼくには聞こえないけど、おそらくその電波に乗っているんだと思う』
( ∵) 『10キロ圏内……細かくどこかは分からないのかな』
(´・ω・`) 『クロスデータがないと無理だね。できれば他に3つ、観測データがほしい』
( ∵) 『クロスデータなら他の村に観測支援を頼むとか、』
(´・ω・`) 『うん、実はそれももうやってる――んだけど、』
( ∵) 『?』
(´・ω・`) 『無線有線赤外線に衛星、磁波まで試したけど、ダメだ。どこからも応答がない』
( ∵) 『……それは、どういう、』
(´・ω・`) 『そこまでは。でも、ビコーズの言葉は間違ってないね、確かに』
( ∵) 『?』
(´・ω・`) 『緊急事態なのは、確かだ』
-
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:34:55.77 ID:pmg7XZfZ0
- ――村長屋敷――
ミ,,;゚Д゚彡 「な、何だゴルァ、この音はよぉ!?」
川 ゚ -゚) 「……音楽。フサギコ村長、これは音じゃないぞ」
ミ,,゚Д゚彡 「おぉ!? だってよぉ、確かに聞こえてんぞ!?」
川 ゚ -゚) 「ドップラーが観測できない。どこにも反響していない」
ミ,,゚Д゚彡 「音じゃなきゃなんだ、コイツは!?」
川 ゚ -゚) 「……分からない。監視所に行ってくる。あそこのシステムなら、ある程度原因が絞り込めるはずだ」
ミ,,゚Д゚彡 「おいクー、ちょっと待て、そんならショボンを叩き起こした方が……って、回線がbusy!?
こんな時に何やってんだアイツは!? おいクー! 待て!」
ガチャ バタン
ミ,,;゚Д゚彡 「……クソ、オレさまぁどうすりゃいいかぐらい言ってけバカヤロー!」
――長老の家――
/ ,' 3 「…………?」
-
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:36:57.85 ID:pmg7XZfZ0
ラ・カンパネラ。壊れかかった旋律の。
――優しかった日々の終わりを知らせる、小さな鐘。
( ^ω^)は、水も酸素もなくては生きられないようです
3話 突入回廊
-
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
[sage] :2007/11/26(月) 18:39:01.32 ID:pmg7XZfZ0
- ――ツンの家――
時計の針だって、今は絶対、止まっているに決まっていた。
ツンは動かない。自分も動けない。
ξ*゚ー゚)ξ 「ブーン、どうしたの?」
そんなことを言われても困った。
(; ^ω^) 「……何が起きてるのか、ちゃんと説明してほしいお」
ξ*゚ー゚)ξ 「だから言ったでしょう、わたしはツンなんだって」
(; ^ω^) 「……ぼくの好きだった食べ物、言えるかお?」
ξ*゚ー゚)ξ 「あら、試すの? 万疋屋のマンゴーカレー。アレだけはわたしどうかと思ってたけど」
(; ^ω^) 「な、なら、ぼくらが知ってる最後の国家主席は、」
ξ*゚ー゚)ξ 「西田国家主席でしょ? ちょっとくちびるがぶ厚い」
(; ^ω^) 「……『イーグル・ネスト』って、知ってるかお?」
ξ*゚ー゚)ξ 「第七次反攻作戦のときの、わたしたちの最終目標だったAWACのコードネーム。
あれは苦労したよね、乙戦の連中が手間取って4機も堕とされちゃって」
(; ^ω^) 「…………」
-
20 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:22:53.02 ID:pmg7XZfZ0
- ξ*゚ー゚)ξ 「認めてくれた?」
( ^ω^) 「……分かったお、確かにキミはツンかもしれない。でも、まだそれだけじゃ半分も行ってないお」
ξ*゚ー゚)ξ 「半分? 何が?」
( ^ω^) 「結果は分かったお。でも、過程も教えてほしいお? どうしてツンが、今目の前にいるのか」
そうだ。過程だ。
いいだろう。目の前のツンは、確かにツンかもしれない。
しかしそれだけでは足りない。納得ができない。
どうして、人間のツンとヒトのツンが入れ替わってしまっているのか。
ヒトのツンは、どこに行ってしまったのか。
( ^ω^) 「ヒトのツンは、ぼくの言葉が分からなかったお? それだけじゃない、字も汚いし、星だって知らなかったお」
ξ*゚ー゚)ξ 「――なぁに、ブーン。しばらくロボットの中で暮らしてたら、そっちに気持ちが移っちゃった?」
( ^ω^) 「そういうことを言ってるんじゃないお? それに、彼らはロボットじゃなくて、」
ξ*゚ー゚)ξ 「ヒト、なんてね。ロボットたちが自分で言ってるだけだよ?
ブーン、しっかりしてよ。ロボットに気分出すなんて、らしくないと思うよ」
――え?
-
24 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:25:33.96 ID:pmg7XZfZ0
-
ξ*゚ー゚)ξ 「ずうっと一緒って、約束したじゃない。ヒドいな、ロボットなんかに浮気してさ。あんなの、プログラムなんだよ?」
(; ^ω^) 「ちょっと待つお、ツン?」
ツンは、こんな言い草をする子だったっけ。
確かに、昔から口は悪かった。
けれど、こんなことは、こんな、ヒトたちのことを知っていれば決して言えないようなことは、言わない子だったはずだ。
ξ*゚ー゚)ξ 「なに?」
(; ^ω^) 「ツンは、その、ヒトたちのことは知ってるのかお?」
ξ*゚ー゚)ξ 「決まってるでしょ、今動いてるのは、全部わたしが造ったんだもん」
ツンはまったく表情を変えずにそう言った。
造った――?
( ^ω^) 「ちょっと待つお、造ったって、」
ξ*゚ー゚)ξ 「大変だったんだからね。起きたらもうぐっちゃんぐっちゃんでさ。だから、ちゃんとしたシステムを作ったの。
今動いてるのは第6世代から後のロボットだけだから、全部わたしが造ったようなものだよ」
ツンが、ヒトたちの「神さま」だった。そう言っているんだろうか。
でも、それはおかしいよツン。
だって、ヒトたちに「神さま」が降り立ったのは、もう何百年も前のはず、なんだから。
-
27 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:28:04.61 ID:pmg7XZfZ0
- ( ^ω^) 「……キミ、ホントにツンかお?」
ξ*゚ー゚)ξ 「何? まだ疑ってるの? いいよ、ブーンの体のどこにホクロがあるかも言ってあげようか?」
( ^ω^) 「そうじゃない、けどキミの話にはまったく整合性がないお? それに、口ぶりもなんだかおかし――、」
ぴと、と。
唇に、暖かな感触。
ξ*゚ー゚)ξ 「――可哀想なブーン。そうだよね、一人でこんなところにいたら、お人形遊びもしたくなるよね」
( ^ω^) 「だからそれは違うお、彼らはちゃんと、」
ξ*゚ー゚)ξ 「大丈夫だよ。わたし、すぐに帰ってくるから。でも、ちょっとだけ待っててね。まずブーンの目を覚まさなくちゃ」
――いや待て。
暖かな感触、だって?
ξ*゚ー゚)ξ 「バイバイ、またね」
そう言って。
ツンの体が、意思の介在しない危険な角度で、倒れた。
-
30 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:30:37.62 ID:pmg7XZfZ0
- ――268番村・監視所――
(´<_` ) 「音楽が、止まった?」
( ´_ゝ`) 「ぐー」
(´<_` ;) 「(あんな大音量で音楽流れてたのに、寝てるよこいつ……)」
川 ゚ -゚) 「そのようだな。わたしの体内時計で10分間だ」 (カタカタカタ
(´<_` ) 「はぁ……それよりあの、クーさん、ここの機械の操作だったらオレらがしますよ?」
川 ゚ -゚) 「まるでキミがここの機械分かるような口ぶりだな」 (カタカタカタ
(´<_` ;) 「えぇっ、あの、一応オレらショボンさんの下で、ここに詰めて働いてるんですけど……。
……確かにショボンさんはあんなことになっちゃったけど……」
川 ゚ -゚) 「あんなこと? ああ、カラスか?」 (カタカタカタ
(´<_` ) 「はい? カラスって何ですか? 違いますよ、この前機能停止して――、」
川 ゚ -゚) 「あ、キミら知らなかったのか? ショボンは稼動してるぞ」 (カタカタカタ
Σ(´<_` ;) 「はぁ!? え、何でオレら知らされてないんですか!?」
川 ゚ -゚) 「影が薄いからじゃないかな――お、出た」 (カタンッ
(´<_` ) 「……電波の観測結果? さっきの音楽って、電波だったんですか?」
-
39 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:33:20.95 ID:pmg7XZfZ0
- 川 ゚
-゚) 「ああ、間違いない。時間は16:32から16:42の10分間。ピタリと符号する。出力……100kWか」
(´<_` ) 「……とんでもない大出力ですね」
川 ゚ -゚) 「むしろ問題は周波数かもしれないな。UHFの669.25MHz。キミ、この周波数に聞き覚えは?」
(´<_` ) 「いいえ、ないです」
川 ゚ -゚) 「わたしもない。がしかし、わたしたちは、この電波に乗った音楽を聞いた。
なら体内のどこかに、この周波数の電波を受信し、復調する器官がなければおかしい」
(´<_` ) 「そんなもの、ない、ですよね?」
川 ゚ -゚) 「少し違うな。実際にはあるんだ。わたしたちが知らないだけで」
(´<_` ) 「故意に知らされてないってことですか?」
川 ゚ -゚) 「いや、そうとも限らない。ただ単にわたしたちが無知という可能性もある。ビコーズあたりに確認を取る必要があるな」
川 ゚ -゚) 「……そして、発信源はここから半径10キロメートル、か」
(´<_` ) 「近いですね」
川 ゚ -゚) 「……なぁ、弟者くん。わたしはずっと疑問に思ってたんだが」
(´<_` ) 「はい? 何です?」
川 ゚ -゚) 「あの日、警報を鳴らしたのはどの監視サイト群だ?」
-
45 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:36:01.99 ID:pmg7XZfZ0
- (´<_` ) 「あの日?」
川 ゚ -゚) 「ブーンが目覚めた日だ。あの日は、ショボンが警報を確認して、わたしたちが捜索に行った」
(´<_` ) 「ああ……アレはもちろん、『塔』の地下にある物資集積区画の、X-7監視サイト群が警報を吐いたんです」
川 ゚ -゚) 「X-7監視サイト群は、熱と電波と磁波を探知するシステム。そうだな?」
(´<_` ) 「はい、そうですね」
川 ゚ -゚) 「キミは不思議に思ったことはないか?」
(´<_` ) 「何がです?」
川 ゚ -゚) 「あのとき、ブーンはカプセルの中にいた。他に侵入者はいなかった。
――じゃあ、監視サイト群は、何を探知して警報を出したんだ?」
(´<_` ) 「……あ」
川 ゚ -゚) 「もっと言えば、『開かずの扉』も開いていた。長老ですら開いたことはないと言っていた扉が」
(´<_` ) 「…………」
川 ゚ -゚) 「そして、この電波は半径10キロ圏内から発射された。その半円の中にあるのは、」
(´<_` ) 「……『塔』、ですか」
川 ゚ -゚) 「そうだ。ニンゲンの手で造られた、ブーンの時代の建造物だ。
――なにかね、なにか繋がっている気がするんだよ。一連の事態が」
-
50 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:38:34.08 ID:pmg7XZfZ0
- ――長老の家――
ミ,,゚Д゚彡 「……つぅワケでまぁ、会議だな」
川 ゚ -゚) 「先ほどのおかしな電波について、何か情報があれば教えてもらいたい」
(´<_` ;) 「……あの、それより前に一ついいですか」
ミ,,゚Д゚彡 「お? なんだ?」
(; ´_ゝ`) 「……ショボンさんが機能停止してなかったって、マジかよ?」
(´・ω・`) 『やーやー。マジだよマジマジ。知らなかったの?』
(´<_` ;) 「驚くべきことに、知らなかったです。オレら直属の部下なのに」
(´・ω・`) 『やー、色々あってねー、なんかトリになっちゃった。テヘ』
(# ´_ゝ`) 「テヘ、じゃねーだろーが! あーもう決めたね、オレ議会全員賛成だね。バラす。ぜってーバラす」
(;´・ω・`) 『いやいやいやいや、堪忍してよ。ね、今度またすっごいのあげるから』
( ´_ゝ`)+ 「よぉっし、オールオッケー」
(´<_` ;) 「……兄者は、楽しそうでいいなぁ」
( ∵) 「じゃ、何だかよく分からないけどそっちの話もひと段落ついたところで、ぼくから話そうか」
-
54 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:41:05.55 ID:pmg7XZfZ0
- ( ∵) 「って言っても、ぼくのやった仕事じゃないんだけどね。ショボンがデータを収集してくれた。
分かったことは、あの「音楽」は電波だったことと、発信源が――、」
ミ,,゚Д゚彡 「あー、悪い。その辺はもうクーが調べてんだ」
川 ゚ -゚) 「出力100kW。周波数669.25MHz。発信源は半径10キロ圏内。データに差異はないな?」
( ∵) 「あ、そこまで分かってるんだ。じゃあ、報告すべきことはあと1つかな」
ミ,,゚Д゚彡 「お? まだあんのか?」
( ∵) 「うん。――あれからずっと試してるんだけど、他の村との連絡が取れない。それも、あらゆるチャンネルで」
(´・ω・`) 『ちなみにカラスの無線機からも試してるんだけど、ダメだね』
ミ,,゚Д゚彡 「……どういうこった?」
( ∵) 「考えられる可能性は、おおよそ2つかな。1つは、何らかの手段で、通信が全部妨害されてしまっている可能性。
――もう一つは、考えにくいけど、」
川 ゚ -゚) 「他の村の設備が、全部ダメになってしまっている可能性、か」
( ∵) 「そういうことになる。ちなみに、村外との交信のうちで最新のログは、今日の12:00の定時連絡だ」
ミ,,゚Д゚彡 「微妙なトコだな。あの電波に関係あるかもしれねぇし、ねぇかもしれねぇ」
(´・ω・`) 『こんな時こそ偵察飛行したいところだけど、ぼくは夜しか飛べないしね。
地上との無線通信がダメだと仮定すると、支援ナシの夜間飛行になる。ちょっとリスクが高いな』
-
57 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:43:47.73 ID:pmg7XZfZ0
- ミ,,゚Д゚彡 「……ふんふん。ま、音楽の方は分かったような分からんような、ってこった」
( ´_ゝ`) 「(ヒソヒソ)クーさんよ、例の『塔』の話、しなくていいのか?」
川 ゚ -゚) 「(ヒソヒソ)何だキミ、起きてたのか。狸寝入りとは性格の悪い」
( ´_ゝ`) 「(ヒソヒソ)オレは、しなくていい仕事はしない主義なんだよ」
川 ゚ -゚) 「(ヒソヒソ)……いや、キミはかなり重要な任務についてるんだけどな。
まぁ、アレはまだ推論にすぎないから。いたずらに混乱させたくない」
( ´_ゝ`) 「(ヒソヒソ)そっか。じゃあオレも黙っとこう」
ミ,,゚Д゚彡 「てーなると、議題はもう一つの方だな」
ミ,,゚Д゚彡 川 ゚ -゚) ( ´_ゝ`) (´<_` ) / ,' 3 ( ∵)
全員の視線が、自分たちの方に向いていた。
6対の瞳は一様に、何か発言を求めていた。
何を話せばいいんだろう、と思う。
あの異常事態の、どこからどこまでを話すべきなんだろう。
ξ゚听)ξ 「あの……えっと、じゃあわたしからご報告します」
-
61 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:46:30.80 ID:pmg7XZfZ0
- ツンが、口火を切った。
ξ゚听)ξ 「えっと、音楽はわたしにも聞こえました。それでいきなり眠くなって。
で、気づいたらフサギコ村長のお屋敷でした。――ブーンが、連れてきてくれたんだよね?」
( ^ω^) 「……うん」
ツンに言わせれば、事態はそうなのだった。
「あの」ツンがいなくなってしまった後、急いで防護服を着て、意識の戻らないツンを抱えてフサギコの家に駆け込んだ。
数分もしないうちに目を覚ましたツンは、あの時のことを一切覚えていなかった。
それだけだった。
――どうしよう、と思う。それはもちろん、「それだけ」でなかった部分について。
言うべきなのは分かっていた。ヒトたちに相談して判断を仰ぐのが、一番正しいに決まっていた。
ミ,,゚Д゚彡 「……こっちもワケ分からんってこったな。ブーンはどうだ? 何か気づいたことはあるかよ?」
言った。
( ^ω^) 「……何も、なかったお」
情けなく震えた声だった。
-
66 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:50:16.14 ID:pmg7XZfZ0
- ミ,,゚Д゚彡 「まぁ、そうだわなぁ。当面の対策は立てられず、か」
川 ゚ -゚) 「そうだ。一つ聞いておきたい」
ミ,,゚Д゚彡 「ん? なんだ?」
川 ゚ -゚) 「件の電波の周波数だ。669.25MHz。この周波数に聞き覚えはないか。ことに、わたしたちの体内で作動するパーツについてだ」
(´・ω・`) 『あ、それなんだけどね』
ミ,,゚Д゚彡 「お? なんかヒットしたのか?」
(´・ω・`) 『いやあ、その――ブツ』
ミ,,゚Д゚彡 「あ? おいショボン?」
「だぁーっはっはっはっはっは!」
川 ゚ -゚) 「……この下品な笑い声は……」
从 ゚∀从 『おうよ! 勇気100倍工場長だぞー』
ミ,,゚Д゚彡 「あ? お前、格納庫にいんのか? 自律運用モードのはずじゃ、」
从 ゚∀从 『あんなヌルいハッキングじゃ、燃えるアタシは止められねー止まらねーんだよ!』
川 ゚ -゚) 「……? 確かにあの時、演算素子を封鎖したはずだ」
从 ゚∀从 『ンなもんデコイだデコイ! 本命はバッチリプロテクトしてるに決まってんだろ! ひゃっほー、アタシって天才!』
-
71 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:52:56.08 ID:pmg7XZfZ0
- (´<_` ) 「天才はいいが、それをバラしたら再処分ってことになるんじゃ?」
川 ゚ -゚) 「アホだな」
从; ゚∀从 『……ん、ンなこたいいんだよ! それよっか周波数だろ周波数!』
ミ,,゚Д゚彡 「あんだお前、なんか知ってんのか?」
从 ゚∀从 『工場区画責任者をナメんなよ! テメーらのパーツ作ってんのもウチらなんだからな!』
川 ゚ -゚) 「それで、何か有力な情報が?」
从 ゚∀从 『ない!』
ミ,,#゚Д゚彡 「……ちょっとお前、リサイクル工場行くか? 演算素子全とっかえしてもらって来るか?」
从 ゚∀从 『ちげーよジジィ! ねーんだよ! そんな周波数が関わってるパーツは、ねーんだ!』
川 ゚ -゚) 「……ないのか、やはり」
从 ゚∀从 『おうよ! そりゃウチだって頭のてっぺんからつま先まで全部造ってるワケじゃねーけどな!
少なくとも、首から下にゃそんなパーツはねぇ! メンテのチェック項目にも含まれてねえぞ!』
ミ,,゚Д゚彡 「微妙に役に立たねーな、テメーは」
川 ゚ -゚) 「いや、そんなこともない。これで情報が絞り込める。
1つ。あの電波を受信する器官は、わたしたちの首から上にある。
2つ。やはり、その器官の情報は、わたしたち自身には隠蔽されている」
从 ゚∀从 『そーゆーこったな!』
-
76 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:55:27.56 ID:pmg7XZfZ0
- 从
゚∀从 『ちなみにテストもしたぜ。669.25MHzにテキトーなデータパケットを乗っけて、アタシに送信してみた』
川 ゚ -゚) 「結果は?」
从 ゚∀从 『まったくダメだ、受信できねー。特定のデジタル変調がかかってねーとダメなんだろうな』
川 ゚ -゚) 「パターンの解析は、さすがに無理か」
从 ゚∀从 『無理だな。正攻法でいきゃ何十年かかるか分かんねー。アタシの報告は以上だぜ』
ミ,,゚Д゚彡 「……あー、じゃあ報告も終わったところで、お前アレな、今から長老の家に出頭しろ。再処分すっから」
从 ゚∀从 『やなこった、アタシはブーンのカラスを修理しなきゃなんねーんだ。バイビー!』 (ブツッ
ミ,,;゚Д゚彡 「……あンのヤロ……」
(´<_` ) 「しかし、頭にオレたちの知らない受信機、ですか。何だか気味が悪いですね」
ミ,,゚Д゚彡 「そうだなぁ。発信者が分からんってのも不気味だしな」
( ^ω^) 「(…………)」
ξ;゚听)ξ 「なんか……結局、カラスのことで罰を受けてるの、わたしたちだけだね、ブーン」
(; ^ω^) 「え? あ、うん、そうだお」
ξ゚听)ξ 「? ブーン、なんか上の空?」
(; ^ω^) 「そっ、そんなことないお?」
-
82 :1
[sage] :2007/11/26(月) 20:57:50.53 ID:pmg7XZfZ0
- そりゃもう、上の空だった。
意気地なしな自分への呪いと事態への混乱がぐちゃぐちゃになった頭で、話なんて聞けるワケがなかった。
どうしてツンが。いや、果たしてあれは、本当にツンだったのか?
さっきから、ずっとそのことばかり考えている。
ミ,,゚Д゚彡 「まぁよ、ブーンにゃ音楽は聞こえてなかったんだろ? よく分からなくても当然だぁな」
(´・ω・`) 『――ちなみに、ぼくにも聞こえなかったね』
川 ゚ -゚) 「これで情報は3つだ。あの音楽は、ヒトにのみ聞こえた。目的は依然不明だが、ヒトを対象としたもの、と仮定していいだろう」
(´・ω・`) 『あ、ヒドいなそれ。ぼくも一応ヒトなんですけど』
川 ゚ -゚) 「話をまぜ返すな」
(´・ω・`) 『……はい』
(´<_` ) 「具体的な対策は、やっぱりナシ、ですかね」
( ∵) 「昔、ニンゲンたちは悪い電波を防ぐために頭にアルミ箔を巻いたっていうね」
ミ,,;゚Д゚彡 「アルミ箔ぅ?」
ξ゚听)ξ 「……ホント? ブーン」
(; ^ω^) 「え? あ、いや、ちょっとそれは知らないお……」
-
89 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:00:27.21 ID:pmg7XZfZ0
- ( ∵) 「まぁ迷信の類だろうね。
確かにアルミは電波を遮断するけど、さすがに至近で発射された100kWの電波となると、難しいだろうし」
ミ,,;゚Д゚彡 「……ならわざわざ言うなよ」
( ∵) 「ブーンもいるし、一応。ホントだったら具体的な対策になるかもしれないと」
ミ,,゚Д゚彡 「まーいい。ンじゃ、そういうことで今日は解散だ。また何かあれば集合。監視所は、警戒を厳にな」
( ´_ゝ`) 「えー、めんどくせー」
(´<_` ;) 「……分かりました。オレ一人でも頑張ります」
ミ,,゚Д゚彡 「頼んだぜ。怪しい電波が出たら、オレんとこに即警報を出せ」
(´<_` ) 「あいあいさー!」
――ツンは、自分の目を覚ます、と言った。
そして電波は、ヒトを対象にして発射されたのだ。
2つの情報が結びついていく。
「あるかもしれない可能性」が、段々と実体を持った不安になっていく。
全部わたしが造ったんだもん。
可哀想なブーン。そうだよね、一人でこんなところにいたら、お人形遊びもしたくなるよね。
-
93 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:03:31.44 ID:pmg7XZfZ0
- (; ^ω^) 「あの――、」
ミ,,゚Д゚彡 「んじゃ解散だ。お疲れ、おれは屋敷に帰るぜ」
( ´_ゝ`) 「んじゃ、オレらも家に帰って寝よーぜー」
(´<_` ;) 「あんた話聞いてたぁ!? ただでさえショボンさん抜けて2直交代なんだから、休む暇なんてあるわけねーだろ!?」
( ´_ゝ`) 「愚弟よ。だからこそオレはゆっくり休むんだよ。明日の任務に備えてな」
(´<_` ;) 「あんたさっきまでグーグー寝てたじゃないかよっ!」
( ∵) 「ぼくも帰るね。ツン、お大事に」
川 ゚ -゚) 「わたしも監視所に詰めよう。それなら3交代で回せる」
(´<_` ;) 「ありがとうございます……なんかそれでも2交代になりそうだけど……」
(´・ω・`) 『まぁ、ぼくも手伝える範囲で手伝うから。それじゃ、接続切るね』
ガチャ バタン。
ヒトたちは、口々に何かを言いながら、賑やかに帰って行った。
/ ,' 3 「…………」
ツンと自分と、この家に住む荒巻を残して。
-
95 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:05:34.20 ID:pmg7XZfZ0
- ξ゚听)ξ 「ブーン? わたしたちも帰ろうか」
( ^ω^) 「……お」
荒巻を見る。
会議の最初から、始終無言でそこにいるだけだった彼。
ああ、やっぱり自分は最低だ。
( ^ω^) 「荒巻……ごめんお」
何かの童話で、こんなのがあった気がする。そう、確か「王さまの耳はロバの耳」だ。
ロバの耳を持つ王に、どうしてもそれが指摘できなくて、従者は穴に向かって真実を叫ぶのだ。
ついにヒトたちにその言葉が言えなかった自分は。自分こそは。
ヒトをロボットと呼び、その心をプログラムと断じたツンに、反抗してみせた自分こそは。
物言わぬだけの、発声器官を持たぬだけの荒巻を、「穴」だと思っているってことじゃないか。これじゃ。
ξ゚听)ξ 「ブーンが謝ることないよ。わたしこそごめんね、いきなり倒れちゃったりして。どうしちゃったのかな」
――ツンの優しさは、今は、自分を谷底に突き落とす腕以外の何物でもなかった。
-
100 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:08:05.47 ID:pmg7XZfZ0
- ――数日後・268番村広場――
悶々とした日々を過ごした。
ツンが何をするつもりなのか、ただそれだけを考える日々だった。
救われないのは、この村においても、ツンが誰よりも近くにいることだった。
それはもちろん、ヒトのツンだ。
けれどあの日のあの10分間、ツンは、人間のツンになったのだ。
忘れまい。絶対に忘れない。あの、唇の感触の暖かさ。
( ´_ゝ`) 「打球がーライトスタンドをー! ひーとーまーたーぎー!」
そう言って打席に立ち、足元をならす兄者の姿を、一・二塁間で眺める。
あのバッターボックスが、どこか遠くの世界のような気がした。
この時代の大気に満ちる二酸化炭素のぶ厚い壁が、霞ませているのかもしれなかった。
カキンッ!
ξ゚听)ξ 「ブーン! そっち行ったよ!」
(; ^ω^) 「え?」
目の前に、白球。
-
103 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:11:07.59 ID:pmg7XZfZ0
- 三○#)゚ω゚) えろばっ!?
( ∵) 「……あちゃー」
イレギュラーバウンドした痛烈なセカンドゴロが、防護服のヘルメットを横から殴りつけた。
むしろ直撃したより酷かった。
ぐあんぐあんといつまでも残響する音と衝撃に、さすがに立っていられなかった。
川 ゚ -゚) 「……おいおい、大丈夫か?」
クーは、ピッチャーのポジションがすっかりお気に入りになっていた。
今日も「受けてみろ……ゲイル流スピットボール!」とか言っていた。
でもクー、キミたちは息を吐けないじゃないか、と。
ぶっ倒れたまま、青い空を眺めながら考えたそんなことは、ピントがボケているクセに、妙に嫌なにおいだった。
(; ^ω^) 「おー、大丈夫だお……この服重いんだお……」
ξ゚听)ξ 「流石さん、何してるんですかっ!」
(; ´_ゝ`) 「えええ!? オレ!? 今のオレのせい!?」
川 ゚ -゚) 「まぁ、体を張ってでも止めてくれて助かったな。
何しろ今は野手が足りない。外野まで転がろうものなら、ボールを捜すのに一苦労だ」
-
106 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:14:00.61 ID:pmg7XZfZ0
- ξ゚听)ξ 「もう、クーさんまで……ブーン、ホントに大丈夫?」
( ^ω^) 「……おー、大丈夫だお。ちょっと効いたけど」
( ∵) 「体調が悪ければ、ベンチで休んでいてもいいよ?」
(; ^ω^) 「これ以上野手が減ったら大変だお。大丈夫、ピンピンしてるお」」
クーが言ったとおり、グラウンドは閑散としていた。
弟者は監視所に詰めている。
フサギコは、「何かあっちゃいけねぇ」と言って、家の端末の前にかじりついている。
ショボンはもちろんもう野球はできないし、高岡はカラスの修理だ。
ピッチャー1人。キャッチャー1人。バッター1人。フィルダー2人。監督1人。
野球の成立するギリギリのメンバーで動かしているんだ。
今、自分が抜けるわけにはいかない。
そうだ、しっかりしないといけない。今の自分は、リャンローパーズのセカンド兼ファーストなんだから。
――そして、野球に集中している間は、難しいことは忘れられるだろうから。
ξ゚听)ξ 「うん、じゃあ、兄者さんは打ったから、次はブーンの番だよ」
打席に立って振ったバットは、かすりもしなかった。
-
109 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:16:33.37 ID:pmg7XZfZ0
- @
試合が……というか、打撃練習が終わった後。
ふと思い出して、ショボンの墓の前に立ってみた。
何だかとっても滑稽なことになってしまった墓は、まだ掘り返した土が新しくて、何とか分かった。
碑を置こう。そう思った。
ショボンは確かに生きていたけれど、ヒトだったショボンの時間が終わってしまったことに、何の変わりもないのだから。
川 ゚ -゚) 「……なぁ、ブーン」
この墓を掘った日を思い出すタイミングで、背後からクーが声をかけてきた。
( ^ω^) 「お、クー。ちょうどよかったお、この辺にこう、これくらいの大きさの石とかないかお?」
川 ゚ -゚) 「? 石なんて、何に使うんだ?」
( ^ω^) 「結局、あの日は碑を置けなかったお。このままじゃ、どこにお墓を作ったか分からなくなってしまうお」
川 ゚ -゚) 「……イシブミ、か。目印のようなものなのかな。そうだな、ニンゲンは、忘れてしまうんだったな」
( ^ω^) 「うん。……残酷だと思うお?」
川 ゚ -゚) 「ああ思う。今でも、すごく思う」
-
111 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:19:05.30 ID:pmg7XZfZ0
- ( ^ω^) 「……でも、ぼくはばかだから、どうしても忘れてしまうお」
川 ゚ -゚) 「いや違う。わたしが言っているのは、ブーン自身の残酷さだ」
( ^ω^) 「……お?」
川 ゚ -゚) 「キミは、ある意味で残酷だ。何も語ってくれないから
何か一人で考え事をしているんだろう。そういうのは直した方がいい。現に、今日もそのせいで負傷した」
――――。
クーの言葉に、思考までもが絶句した。
セラミック頭蓋骨で鎧われた、機械の副脳までもついたアタマは、完全にタンパク質の塊に成り下がった。
統制を失った感情を、抑えきることができなかった。
(# ^ω^) 「……誰のせいだと思ってるお」
川 ゚ -゚) 「……? ブーン?」
(# ^ω^) 「キミらがそんなに精巧じゃなければ……心なんて持ってなければ、ぼくだってこんなに悩むことはないんだお」
川 ゚ -゚) 「……ちょっと待って欲しい、何を言っているのか分からない」
(# ^ω^) 「どうしていつもいつも、キミたちはそうなんだお!?」
-
112 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:19:35.97 ID:pmg7XZfZ0
- 川 ゚ -゚) 「ブーン、落ち着いて欲しい。話を聞いてくれ。わたしは、あの電波の発信源が『塔』じゃないかと、」
(# ^ω^) 「そんなことはどうでもいいんだお! キミたちもぼくを指さして言うんだお!?
あいつはおかしいって! 人間じゃないって! 尊敬するフリして、影じゃ気持ち悪がってるんだお!?」
川 ゚ -゚) 「……何が悪かったのか分からない。でも謝る」
(# ^ω^) 「今さら言ったって遅いお! そんな言葉に何の意味があるんだお!?
言えば蔑視、言わなければ直せ! キミは、キミたちはいつもそうだお! ぼくにどうしてほしいんだお!?」
川 ゚ -゚) 「……なぁ、頼む、キミにどうしても聞きたいんだ。あの『塔』は何なんだ?」
――キレた。
(# ^ω^) 「あーいいお! 答えてやるお! アレは! あの塔は! あのブーンタワーは!
英雄・内藤ホライゾンの栄光を後の世まで遺すための、ぼくの墓標だお!」
-
115 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:22:16.75 ID:pmg7XZfZ0
- ――――――
塔まで、建ったのだ。
高さ、1234メートルの。地上800階を越える。
もちろん、中央省庁移転計画自体も実際に『塔』の建設が始まったのも、自分が生まれるより前のことだ。
アレは本来、中央省庁合同庁舎とでも呼ばれるべきシロモノだった。
そんなものに「ブーンタワー」なんて名前をつけよう、と誰かが言い出した。
帝国主義者どもの侵略戦争の前に常に立ちはだかり、その作戦をことごとく潰し、或いは報復してきた無敗のエース。
この国の中心となるべき『塔』にその名を冠し、未来永劫の繁栄へのゲン担ぎにしよう。
週刊誌に特集記事が組まれた時には、まだ笑っていられた。
笑いが消えるのは早かった。
そのふざけた命名は、驚くべき速さで民生委員会を通過したのだ。
今思えば、軍からの圧力があったからこそ、なんだろう、とは思う。
でも、そんなことはどうでもいい。
呪いに等しかった。
本気で目眩がしたし、実際倒れて医務室にまで行った。
自分の、1000年前の職業は、英雄、だった。
-
120 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:24:18.50 ID:pmg7XZfZ0
- 終身撃破数、352機。
赤いカラーリングの旧式甲戦「蜂」を駆る、最強の飛行中隊長。
「緋蜂」のブーン。
冗談じゃなかった。
悪いことに、冗談じゃないのは「彼ら」の方も一緒だった。
ただの哨戒飛行ですら、出撃のたびに毎回国防部長が記者会見をした。
いもしなかった敵の撃破を、カメラの前で誇らしげに語るために。
国の公式記録では、自分は、1000機以上を撃墜したことになっている。
1人殺せば犯罪者で、100人殺せば英雄だ。
そして352機を撃墜した自分は、まごうかたなき嫌われ者だった。
そしてきっと、死ねば戦神になっていただろう。
賞賛の影には、いつも「人殺し」という言葉がついて回った。
人々は遠巻きに無責任な賛辞の言葉を送り、内心では自分を恐れて、決して近づいてはこないのだ。
出生から何もかも調べ上げて、どうしてこんな怪物ができてしまったのかを、誰も彼もが楽しげに考察していた。
いつもいつも最前線に回される自分の中隊を、パイロットたちは墓場と言って恐れていた。
そして、どんな地獄だって、たとえ中隊が自分1機になったとて、必ず生きて帰ってくる自分が恨めしかった。
1機も墜とさずに帰ってこられる方法があるなら、誰か教えて欲しかった。
――英雄の正体は、何のことはない、ただ死ぬのが怖いだけの臆病者だった。
-
123 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:26:50.58 ID:pmg7XZfZ0
- ――――――
感情は、熱量だった。
吐き出してしまえば、アタマはイヤでも冷えていった。
(; ^ω^) 「……あ」
川 ゚ -゚) 「……ごめん、またわたしは、キミを怒らせてしまった。残酷というのは、わたしなりの表現だったつもりなんだが」
(; ^ω^) 「いやっ、違うお、あのっ、だから、」
残酷という言葉に悪意がないのは分かりきっていたし、吐き出した真っ黒な感情の、本当の理由だってそんなことじゃなかった。
嫌われるのが、イヤだった。
だから、核心に近づきかけたクーを、無関係なクーを、攻撃した。
自分が災厄を招くのかもしれない。
自分の考えているそのことを素直に言って、その事実を彼らに知られて、また一人ぼっちになるのが、どうしてもどうしてもイヤだった。
川 ゚ -゚) 「話は、また今度にしよう。あの『塔』、どうやらキミとは因縁浅からぬもののようだ。配慮が足りなかった」
クーはそれだけ言って、話はこれでおしまい、と背中を向けて、歩いていってしまう。
ひとり、ショボンの墓前に取り残される。
残酷の報いは、残酷だった。
-
125 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:29:22.18 ID:pmg7XZfZ0
- クーは、この醜い感情を吐き出すことすら、許してはくれなかった。
或いは、彼らには感情がないから、この気持ちが理解できないのかもしれない。
この期に及んでそんなことまで考える自分を、今までのどんな敵よりも殺したい。
笑う。笑え。
過程はどうあれ、これでまた自分は嫌われ者だ。
ワケの分からないことを叫んで、ありもしない憎悪をぶつけた狂人だ。
ああ、自分はどうして生きているんだっけ。
重たい防護服まで着て。たった3種類の食事にも耐えて。
あれだけ多くの人を殺して。
通り魔のような凶悪さで、逆上して突然ヒトを傷つけて。
存在するだけで、またヒトを傷つけるかもしれなくて。
それでも諦め悪く生きることにしがみつく、その理由は、何だ?
@
川 ゚ -゚) 「(……また失敗、か)」
川 ゚ -゚) 「(…………。
この前できなかった握手、しようと思ったんだけど、な)」
-
128 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:31:52.89 ID:pmg7XZfZ0
- @
ξ゚听)ξ 「あ、ブーンこんなところにいた。どうしたの? 探したよ?」
しばらく、ボーっと立っていた。背後から声がかかった。ツンだった。
( ^ω^) 「…………」
ξ゚听)ξ 「……ブーン?」
( ^ω^) 「……ツン、これくらいの大きさの石を知らないかお?」
ξ゚听)ξ 「え、石? 何に使うの?」
( ^ω^) 「……ショボンのお墓の、碑にしようと思って。目印みたいなものだお。ぼくらは、忘れてしまうから」
ξ゚听)ξ 「そっか。ブーンは、優しいんだね」
( ^ω^) 「…………? どうしてかお?」
ξ゚听)ξ 「だって、ヒトだったショボンさんのことを忘れないために造ったんでしょう? オハカ。
あなたのことを忘れないよ、ぼくたちは覚えてるよ、って。優しいと思う、そういうの」
-
131 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:34:25.15 ID:pmg7XZfZ0
- ――分かってたことじゃないか。
あの夜、5万フィートの星空を見て、ツンは綺麗だと言っていたじゃないか。
ヒトたちは、自分に水も酸素も与えてくれた。
自分とヒトたちとは、こんなにも違うのに。
そうだといいな。うん、そうだといい。
ブーン、水はあるよっ!
キミは、人民の光なんだ。キミが1人敵を殺せば、わが国1億2千万の人々に希望を与える。
0A71B1 ≒ 08BB95A23。
ブーン、おいしいお!? ホシ、というのは見たことがなかったな。なんというか――、
最初に空を飛びたいと思ったのは何歳でしたか?
ブイ。 お互いのことを知りたいと思っているのは、キミだけじゃない。
ブーンのために造ってみたぜ! 1000年後が、きっと幸せな時代でありますように。
あの英雄はね、わたしたちの体制の「歪み」のようなものなんですよ。
ニンゲンは、残酷なんだな。
内藤中隊長ですか? 自分の憧れですね。
うん、やっぱりブーンはいいこと言うね。
――マジ!
気持ちが、何一つ言葉にならなかった。
ただクーに酷いことを言ってしまったという実感と、ヒトたちに事実を隠し続けた罪悪感と。
埋めがたい巨大な空虚があった。
この感情の名前は、きっとない。
そして、神さまはもしかしたら、この感情を表すために、人間に涙を与えてくださったのかもしれない。
-
134 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:37:06.74 ID:pmg7XZfZ0
- ( ;ω;) 「…………」
Σξ;゚听)ξ 「え!? わ、なに!? どうしたのブーン、ナミダが、」
( ;ω;) 「……ぜんぶ、話すお。これまでのこと。あの日のこと。聞いてくれるかお、ツン」
ξ;゚听)ξ 「え? え? うん、それはいいけど、ブーン、とりあえず落ち着こ? あの、えっと、ごめん、何て言ったらいいのか、」
ツンは、もう一度チャンスをくれた。これ以上言葉なんて要らなかった。
それに言葉を重ねれば、自分は、またウソをついてしまうかもしれない。
言葉なんてなくたって、あの最初の日々に、ヒトたちは、自分の言いたいことをあんなにも理解してくれた。
思えばあの時こそ、自分は一生でただ一度、素直でいられたと思う。
言おう。今度こそ全部言おう。
身振り手振りと「マジ」だけでは決して伝えられなかったことを言おう。
言葉が分かってしまうからこそ、ツンに心があるからこそ、確かに怖い。
それでも。
死者のために墓穴を掘る。人間の行動の中でも最上級の欺瞞にさえ、優しいと言えるヒトに。
もう、自己保全のためだけの汚いウソはつくまい、と思う。
拒絶されるのは、覚悟の上だ。
思う。
きっと、本当のことが何も言えなかったから、人間なんて滅んでしまったんだ。
-
138 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:39:40.42 ID:pmg7XZfZ0
- ――夜・ツンの家――
時間をかけて、全てを話した。
全てというのは、もちろん全てだ。
( ^ω^) 「最後の出撃は、12月だったお。生きて帰れば何でも願いをかなえる。そういう約束をしたお」
作戦名は『アルファゼロ・ブレイク』。
安直過ぎる名前だ。敵軍の総司令部の作戦座標であるα−0を叩く。それが、最後の作戦だった。
どんなミサイルも届かないあの悪魔の城のような総司令部を、航空機でもって直接爆撃する。
バカ言っちゃいけない。
インターセプターは墜としても墜としても上がってきたし、機銃はあっという間にカラになった。
それでも、総司令部爆撃のその瞬間まで爆撃機を護衛し続けるのが、自分たちに課せられた任務だった。
爆撃機が被弾さえしなければ、弾よけになって死んでも構わない。
作戦内容は、そう言っていた。
何が何でも生きて帰らなければならなかった。ツンと一緒に、1000年の眠りにつくために。
そして自分は、あの地獄をも生き抜いたのだ。
爆撃を無事敢行した最後の爆撃機さえ、帰ってはこられなかった。
残存機は、全ての部隊を合わせて5機に満たなかった。
自分たちはそうして、あのコールドスリープカプセルに逃げ込んだ。
-
141 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:42:02.36 ID:pmg7XZfZ0
- もう二度と、空に上がることはないと思っていた。
なのに自分は、カラスを見たあの時、もう一度飛びたいと思ってしまったのだ。
ツン、ぼくはね、どうしようもなくばかなんだ。
そう言った。
ぼくは、ぼくたちは2人ぼっちだった。
そうも言った。
話を続けた。
あの夜自分が見たこと。
あの10分間、ツンは確かに人間のツンだったこと。
あの時のツンには、体温が、あったこと。
ξ゚听)ξ 「…………ブーン」
( ^ω^) 「クーは、『塔』が電波の発信源なんじゃないか、って言ってたお。
当たってるかどうかわからないけど、少なくとも『塔』にはそれができると思うお。あの『塔』は、首都の電波塔も兼ねてたから」
ξ゚听)ξ 「……ブーン」
( ^ω^) 「ツンは、ぼくの目を覚ますと言っていたお。多分きっと、ヒトたちに何かをするつもりだお」
ξ゚听)ξ 「ブーンっ!」
ツンに何も言わせまいとして重ねた言葉が、遮られた。
-
144 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:44:33.44 ID:pmg7XZfZ0
- 自分は、なんと言われるだろう。
化け物? うそつき? 人殺し?
何だっていい。それは本当のことだから。
さぁツン、言って欲しい。拒絶して欲しい。この優しかった日々を、終わらせて欲しい。
ξ゚听)ξ 「――仕方なかったんだよね」
ツンは、そう言った。
( ^ω^) 「仕方なくなんてなかったお。事実、ぼくは敵をたくさん殺した人殺しでうそつきだお。
そんなにイヤなら、ぼくが死ねばよかったのに。生きてるだけで人を殺さないといけない、最低の人間だお。
1000年経っても、やっぱり何も変わらなかったお。またぼくは、生きてるだけでヒトたちを――、」
猛然と反論した言葉は、ツンに強引に切られた。
――ぴと。
今度は、冷たかった。
ξ゚ー゚)ξ 「……えへへ、人間のツンさんのマネをしてみました」
( ^ω^) 「……ツン?」
-
148 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:47:04.71 ID:pmg7XZfZ0
- ξ゚ー゚)ξ 「仕方なかったんだよ」
ツンは、もう一度そう言う。
自分の抱え続けたものを、ツンはその一言でくくってみせた。
ξ゚ー゚)ξ 「人間のツンさんだって、話せば分かってくれると思うな。わたしたちを造った神さまだもん」
( ^ω^) 「…………」
ξ゚听)ξ 「……納得、いかない?」
迷わず本音を言った。
( ^ω^) 「それだけで、許されるものじゃないと思うお。それにツンも分かってくれるかどうか、」
突然、ツンが立ち上がって、びしぃっ、とこっちを指さした。
ξ゚听)ξ 「ブーンの悪いところその1!」
-
150 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:47:48.10 ID:pmg7XZfZ0
- ξ゚听)ξ 「ブーンはうそつきです。それで、自分で全部考えちゃいます。悪いところその1です!」
(; ^ω^) 「……お」
ξ゚听)ξ 「その2! 悪いと思ってるのに、つぐなおうとしません!」
( ^ω^) 「……お?」
ξ゚听)ξ 「ブーンはたくさん人を殺しました。ウソもつきました。クーに酷いこと言いました。それが全部、悪いって分かってます!
なのに、罪をつぐなおうとしません!」
( ^ω^) 「つぐなう?」
ξ゚听)ξ 「そうだよブーン、分かってる? ツンさんを説得できるの、ブーンだけなんだからね?
悪いと思ってるなら、ちゃんとツンさんを説得して、わたしたちを救ってください。ね?」
( ^ω^) 「…………」
ξ゚听)ξ 「その3! 自分で死ねばよかったとか言わないの! 死ななかったから、今ブーンはここにいるんでしょ!?
わたしは、ブーンが来てくれてよかったと思ってます!
それに、ブーンが死んじゃってたら、人間のツンさんもいません!
そしたら、きっと大変な時代がずーっと続いて、わたしたちのご先祖さまもみんないなくなっちゃってました!」
( ^ω^) 「おー……」
ξ゚ー゚)ξ 「だから、ね? 大丈夫、クーさんもみんなも、ブーンのこと大好きだよ。
ツンさんの言ったこと、正しいと思う。ブーンは確かに水も酸素も要るけど、でもそれだけでしょ?」
( ^ω^) 「…………」
-
151 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:50:28.06 ID:pmg7XZfZ0
- ξ゚ー゚)ξ 「わたしもみんなも、もうブーンは大事な仲間だと思ってるよ。
ブーンはウソをついたけど、でもそれでキライになることなんてない。謝って、つぐえばいいんだよ」
――そう言って笑うヒトは、どこまでも優しかった。
その優しさを疑うことは、しない。
カッコつけて、できない誓いを立てるのもやめだ。
もうウソはつかない。その必要がない。
本当のことを話して、なおヒトは、自分を受け入れてくれるのならば。自分は、1人ぼっちではないのだから。
この優しさに報いよう、と思う。自分にできる、全力を尽くして。
言うべきことはひとつ。
( ^ω^) 「ツン、ありがとうお」
やるべきことはひとつ。
( ^ω^) 「ぼくは、全力でヒトを守ってみせるお」
ξ゚ー゚)ξ 「ん、それでよろしい。お願いだからね」
約束した。これだけは、絶対に破れない約束だった。
-
154 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:52:59.12 ID:pmg7XZfZ0
- ――同時刻・「カラス」格納庫――
(´・ω・`) 「やー、それにしてもなんだね。アレからキミにお咎めないね、工場長」
从 ゚∀从 「それどこじゃねーんだろ。電波がどうだか知らねーけどよ。それより、ブーンは飛ぶ気あんのかな?」
(´・ω・`) 「どうだろうねー、どうもここのところ上の空だからね、ブーン」
从 ゚∀从 「あ? なんでだよ」
(´・ω・`) 「まぁ、想像はつくかな。下衆の勘ぐりだけど」
从 ゚∀从 「何だよ、もったいぶらずに言えよ」
(´・ω・`) 「あの電波、半径10キロ圏内から発射されたろう。
相変わらず他の村と連絡が取れないからクロスデータ取れないけど、やっぱり『塔』じゃないかなと思うんだよね」
从 ゚∀从 「あんでだよ。電波なんて何だって出せんだろ。お前だって出せるんだぞ」
(´・ω・`) 「そうだけどさ。100kWの大出力となれば、生半な電源じゃ無理だ。
それに、伝播効率で言っても、あの『塔』は確かにうってつけだしね」
从 ゚∀从 「んで? それがどうブーンと関係あんだよ」
(´・ω・`) 「キミ、忘れてない? ブーンは、あの塔の地下物資集積区画で眠ってたんだよ?」
从 ゚∀从 「じゃあブーンがあの電波出したってか?」
(´・ω・`) 「そうは言ってないけど、やっぱり同じニンゲンの施設だからね。何か知ってるんじゃないかな、ブーンは」
-
159 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:56:11.19 ID:pmg7XZfZ0
- 从 ゚∀从 「推論ばっかだな。話になんねー」
(´・ω・`) 「下衆の勘ぐりって言ったろう。――まぁ、あとはカンかな」
从 ゚∀从 「は。ブーンみたいなこと言いやがる。8ビットマイコンの親玉がカンかよ。
言っとくけどな、アタシらがどんなにマネしたって、ブーンのロックにゃ勝てねーぜ」
(´・ω・`) 「……キミ、たまに核心を突いたこと言うよね」
从 ゚∀从 「お前、アタシをバカだと思ってんだろ」
(´・ω・`) 「……うん、ちょっと」
从 ゚∀从 「テメ、修理してやんねーぞコラ」
(´・ω・`) 「元々ぼくのために修理してるワケじゃないくせに」
从 ゚∀从 「……うっせーよ。どーせアタシぁパートナーにしてもらえなかった負け犬ですよ」
(´・ω・`) 「ツンか。あの子もちょっと分からないよね。なんだか、ブーンっぽいっていうかさ。
ブーンが来る前はおかしな挙動をする子だな、と思ってたけど」
从 ゚∀从 「どこがブーンに似てるんだっつの。尻が青いガキだあんなのは」
(´・ω・`) 「さすが。起動から30年経ったオバさんは言うことが違うな」
从 ゚∀从 「っせーつんだよ!」
-
161 :1
[sage] :2007/11/26(月) 21:58:42.93 ID:pmg7XZfZ0
- ――数日後の夕方・ツンの家――
何日かツンの家にこもって、どうやって人間のツンを説得するかを考えた。
きちんとツンを説得して、みんなに謝るのはそれからにしよう。そうツンと決めた。どうしても、自分でケリをつけたかったからだ。
ξ゚听)ξ 「……待ってると、意外に来ないねえ。ツンさん」
( ^ω^) 「必ず来るお。ツンは短気だから、きっとそろそろだと思うお」
ξ゚听)ξ 「……ブーンって、ツンさんのことよく知ってるんだねぇ」
( ^ω^) 「そりゃそうだお。ずっと2人ぼっちだったから」
ξ゚听)ξ 「そっかあ。ちょっと羨ましいなあ」
@
ツンが、ご飯の用意しなきゃね、と言って立ち上がった瞬間。
自分が、それじゃあ、と言って、食肉っぽい味の高タンパクゲルを頼もうとした瞬間。
クーが監視所に詰めて、モニタを眺めていた瞬間。
フサギコが端末の前で、ちくしょうこうヒマじゃたまらねぇぜと思っていた瞬間。
せっかくの休みだというのにキャッチボールをしたいと言い出した兄者に、弟者が付き合わされていた瞬間。
ビコーズが、boonシステムβ1.01の214行目のコードに取り掛かった瞬間。
高岡がショボンに、よっしゃできたぜ完璧だひゃっほー、と言った瞬間。
警報が、鳴った。
-
165 :1
[sage] :2007/11/26(月) 22:01:13.69 ID:pmg7XZfZ0
- 音楽だ、とツンが言った。
それはもちろん、669.25MHzに乗せられた、リストの「ラ・カンパネラ」だ。
ξ゚听)ξ 「じゃあ、お願いだからね、ブーン」
そう言ったツンに、一つ頷き返す。
ξ*゚ー゚)ξ
次の瞬間のツンはもう、あのツンだった。
@
ξ*゚ー゚)ξ 「やっほーブーン。待っててくれた?」
( ^ω^) 「うん。待ってたお。キミのこと」
ξ*゚ー゚)ξ 「あ、嬉しいな。ちょっとは考えも変わってくれた?」
( ^ω^) 「……ううん、それは、残念ながら」
ξ*゚ー゚)ξ 「そっか、それは残念」
-
168 :1
[sage] :2007/11/26(月) 22:03:45.37 ID:pmg7XZfZ0
- ――同時刻・「カラス」格納庫――
从 ゚∀从 「あー、ウゼぇな畜生、かったりー音楽だ」
(´・ω・`) 「……来たんだ、また。じゃあ、情報統合監視システムにアクセスしよう」
(´・ω・`) 『やぁ。今の当直はクーかな?』
…………。
(´・ω・`) 『……あれ? クー?』
…………。
(´・ω・`) 『……? 寝てるの?』
…………。
(´・ω・`) 『ぼくじゃあるまいし、って一人でつっこむの寂しいなぁ』
…………。
-
172 :1
[sage] :2007/11/26(月) 22:06:29.17 ID:pmg7XZfZ0
- ――ツンの家――
( ^ω^) 「……この電波は、『塔』から出してるのかお?」
ξ*゚ー゚)ξ 「わ! すごい、どうして分かったの? カン?」
( ^ω^) 「ヒトが教えてくれたお」
ξ*゚ー゚)ξ 「……なんだ、ロボットの入れ知恵か。つまんないの」
( ^ω^) 「ツン。前も言ったけど、ヒトはぼくらの知ってたロボットじゃないお。ちゃんと心を持ってるお」
ξ*゚ー゚)ξ 「だーかーらー、そういうプログラムなんだって。造ったわたしが言うんだから間違いないよ」
( ^ω^) 「ねえ、ツン。聞いて欲しいお」
ξ*゚ー゚)ξ 「んー? なぁにブーン」
( ^ω^) 「キミのやってることは、ぼくらがされたことと同じじゃないかお?
ヒトたちの上に立って、心を否定して、ただ単純に利用価値だけを見て」
ξ*゚ー゚)ξ 「ああもう、分かんないなぁブーンは。それがロボットの幸せでもあるんだよ?
わたしたちのために存在してる道具なんだもん」
( ^ω^) 「…………」
ξ*゚ー゚)ξ 「分かってくれた?」
( ^ω^) 「分かったことは2つあるお」
-
175 :1
[sage] :2007/11/26(月) 22:08:59.15 ID:pmg7XZfZ0
- ξ*゚ー゚)ξ 「え? なになに?」
( ^ω^) 「キミは、やっぱり間違ってる。それから、キミはツンじゃないお」
ξ*゚听)ξ 「……はい?」
( ^ω^) 「キミは確かにぼくのことを知ってた。でも、ぼくだってツンのことを知ってるお。
ずっと2人だけだったんだから。誰よりも近くにいたんだお」
ξ*゚听)ξ 「それで?」
( ^ω^) 「ヒトたちを道具と言い切れるキミは、絶対にツンじゃないお。あの子は、そんな言い方はしなかったお」
ξ*゚听)ξ 「そりゃあ……ちょっとは変わりもするよ。ブーンと一緒にいるためにずっと一人で、」
( ^ω^) 「それもおかしいお? どうして人間のツンが、何百年も生きられるんだお?」
ξ*゚听)ξ 「…………」
( ^ω^) 「どうしてキミがこんなことをしてるのかは知らないお。
でも、ヒトたちに危害を加えるのはやめてほしいお」
ξ*゚听)ξ 「…………」
しばらくの沈黙の後。
ξ*゚听)ξ 「……らないクセに」
-
178 :1
[sage] :2007/11/26(月) 22:11:30.24 ID:pmg7XZfZ0
-
ξ*゚听)ξ 「知らないクセに! お母さんはね! ずっと1人ぼっちだったんだよ!? ブーンとずっと一緒にいるために!
システムも整えた! ずっとブーンと一緒にいられるように! これでようやくずっと一緒じゃない!」
( ^ω^) 「……お母さん? キミは、ツンの子なのかお?」
ξ*゚听)ξ 「そうだよ! お母さんは頑張ったよ!? 何が不満なの!?」
( ^ω^) 「……キミが、ヒトたちを犠牲にした幸せを求めていることが」
ξ*゚听)ξ 「…………っ! そっか、まだブーンは分かってないんだ!
いいよ、見せてあげる! ロボットたちのこと、ヒトなんて呼べなくなっちゃうんだから!」
ξ*゚听)ξ 「あんなの、ただのお人形なんだから!」
ツンが、そう叫んだときだった。
部屋の隅に置かれた端末の、呼び出し音が鳴った。
ξ*゚听)ξ 「うるさい!」
(´・ω・`) 『……? その声は、ツン? 何か怒ってるのかな?』
( ^ω^) 「何でもないお。どうしたお?」
(´・ω・`) 『ああうん、ちょっとばかりね、マズいことになってるんだ』
-
183 :1
[sage] :2007/11/26(月) 22:14:11.15 ID:pmg7XZfZ0
- (´・ω・`)
『さっき、R-5監視サイト群がヒトを探知した。R-5っていうのは、塔に繋がる道の、ここから2キロくらいのところにある』
( ^ω^) 「……お? 誰か来るのかお?」
(´・ω・`) 『いや違うよ。こっちから行ったんだ。IFFの反応は、クーだった。彼女は塔に向かっている』
(; ^ω^) 「クーが? どうしてだお?」
(´・ω・`) 『それは分からない。――まずいのは、ここからなんだ。天象監視サイト群が、さっき警報を出した。雨が降る』
( ^ω^) 「雨?」
そのとき、ツンが笑った。
ξ*゚ー゚)ξ 「あははははは! 雨!? 雨が降るの!?」
なぜ彼女が笑うのかが分からない。
( ^ω^) 「……ショボン、教えてほしいお。どうしてそれがマズいんだお?」
(´・ω・`) 『ただの雨じゃない、豪雨が降りそうなんだ。それがマズいんだよ。ぼくらは、水に弱いから』
ξ*゚ー゚)ξ 「電気仕掛けのお人形だもんねえ!」
(# ゚ω゚) 「ちょっとキミは黙ってるお!」
-
186 :1
[sage] :2007/11/26(月) 22:16:45.50 ID:pmg7XZfZ0
- (´・ω・`) 『多分クーはそのことを知らない。そして、豪雨になってしまえばぼくらも助けに行けない。
キミにしか頼めないんだ。……クーを、助けて欲しい。防水カバーは、フサギコの家にある』
( ^ω^) 「分かったお、すぐ行くお!」
(´・ω・`) 『頼むね。また何かあったら連絡する』
ξ*゚ー゚)ξ 「お人形は何をするか分からなくて、大変だねブーン」
( ^ω^) 「心があるから何をするか分からないんだお。ぼくらは人を殺した。ウソだってついた」
焦りながら防護服を着ていく。
手が滑って何度も失敗するたび、焦りで気が狂いそうになる。
ξ*゚ー゚)ξ 「行くの? 間に合わないと思うけど」
( ^ω^) 「――ずっと探してたんだお。この村に来てから。何かぼくにできることはないかって」
ξ*゚ー゚)ξ 「そんな心配、しなくていいのに。所詮、わたしたちのための道具なんだから」
( ^ω^) 「……キミこそ、やめてはくれないのかお?」
ξ*゚ー゚)ξ 「だって、わたしはブーンの目を覚ましてあげなきゃ」
( ^ω^) 「……なら言っておくお。ぼくは、何をしてでもキミを止める」
-
189 :1
[sage] :2007/11/26(月) 22:17:56.74 ID:pmg7XZfZ0
- ξ*゚ー゚)ξ 「残念だけど、それも間に合わないかな。無敵の撃墜王なのに、何もできないね、ブーンは」
(# ^ω^) 「うるさいお! ぼくはクーを助ける! 助けてみせるお!」
ξ*゚ー゚)ξ 「無駄なのになぁ」
がちゃ、と最後のバックルをはめる。
飛び上がるように立つ。
30キロの防護服を背負っても。
走らないといけない。
絶対に間に合わせないといけない。
クーを、助けないといけない。
ξ*゚ー゚)ξ 「……行ってらっしゃい」
返事はしないで、ツンの家を飛び出した。
-
190 :1
[sage] :2007/11/26(月) 22:18:30.70 ID:pmg7XZfZ0
- ――塔への道――
フサギコからひったくるようにして、防水カバーを持って。
夕暮れを、走る。
息はあっという間に切れた。
それでも脚を止めるワケにはいかない。
ぽつ、ぽつ、と、雨粒がバイザーに当たり始める。
間に合わないかもしれない。
無駄なのに。
あの子が言った、その言葉が段々大きくなっていく。
――諦めるな。
ヒトたちを守る。そう、ツンと約束した。
絶対に破れない約束だ。絶対に守らねばならない約束だ。
これ以上ウソつきになってたまるか。
まだ、自分はクーに謝ってもいない。
思いを裏切るように。
小雨は、驟雨に変わっていく。
防護服の靴底から伝わる地面のぬかるみは、絶望と同じ感触がする。
-
193 :1 ◆JTDaJtyHNg
[sage] :2007/11/26(月) 22:20:03.17 ID:pmg7XZfZ0
- というわけで、( ^ω^)は水も酸素もなければ生きられないようです 3話 突入回廊 前半でした。
今日は、中身については特に言うことはありません。まだ折り返しなので。
今回はちょっと誤字が酷かったでした。
AWAC→AWACS
わたそたち→わたしたちです。
また、最初の方で透明の中の人と勘違いされてしまいましたが、違います。ああなりたい。
支援してくださった方、ありがとうございます。
では、また後日投下します。
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